源氏物語

紫式部

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夕されば門田の稲葉おとづれて、蘆のまろやに秋風ぞ吹く。天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも。

めぐりあひて見しやそれとも分かぬ間に雲がくれにし夜半の月かな。

わが庵は都のたつみしかぞすむ世をうぢ山と人はいふなり。

あまの原のつきかげさへうつろひて、夢に浮かぶがごとく君をしのぶ心地して、もの思ふままに灯をともし、かそけき奥のほそ道をたづねゆけば、たちまちに雨も降り、風もふきぬ。

世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし。

昔、男ありけり。いと若うて容貌美しく、教養も深く、人になく愛敬ありけり。父はある大臣にて、家は高く、後見あるべき人も多かりけれど、あまりの光栄をしたがひて、ことさらに冒し奉らるることをいとほしく、世の中の事を思ひあやなく、君の名をば光る人とぞいひける。

かの人の母は桐壺女御といひけり。御心うち深く、かたちやうすぐれてをはしけれど、貴き身分になりて人の憎むところとなりにけり。幼くして君を生み給ひけるより、成長までの間、心細く思しめして、御身のかたはらにのみをき給ひけるを、世人の心もよそにて、いといたういとほしきにやと見えけむ。

かくて男の御世にて、むすこ生まれてはあらず、をとこやもさらにおとろへぬれば、人々はかの君をばおしのけて、あるじの心をやすからしめむとて、いみじきほどにめづらしと見しやりける。

さればかの君、いとをかしき容貌にて、もののあはれをよく知り、をかしきこといと多かりければ、世の人の心をひきつけて、ますます貴げなる身にぞ成りにける。