(場内。客多く、座敷などに雑然と人のあること。若党どもがそぞろに酒を喰い、語り、茶屋の主人や女将が出入りする。)
女将 いやはや賑やかでござんす。今日もまた京のど真ん中にて、客の入りのよろしきこと、この茶屋の繁昌にございます。客 おや、そこの若そうな方、何とお名前でお越しかね? 若党 おう、拙者どもは小普請組の者にて候。今日は馴染みの者と酒をば楽しみに参った次第にございます。
(そこへ一人の年配の男が入って来て、奥の方へうながされる。) 年寄 さては一刻の手配もたてねばならぬ事が御座る。先刻より知らせの者が来て、今夜にても事を決行致すべしとの事にて候。若党 へえ、それはさぞや急がねばなりますまい。何と申すは御家の御意向にございますか。年寄 ああ、御家再興のためには一命も惜しからず、かつての仇討ちの理を遂げねばならぬ。されば局を固め、計りごとを整えよ。
(客たちの声が一時静まり、内密の相談が始まる。) 年寄 ここにいる者はおのれらの志を同じうする者ばかり。各々心得て候へ。夜半になれば、外に出て偽の姿をして公儀の手をかいくぐり、仇の屋敷に乗り込み、主君の恥を雪ぐのである。若党 御意にござ候。ただし、道中の注意と召し物の入念は肝要にて候。年寄 さよう、用人にはあらぬ振る舞いをせず、忍びの術をもって行動するべし。
(女将が酒を運び、客の一人が杯を上げる。) 若党 杯をば。今夜は一夜の魂を懸けることにして、酔ってはならぬと申すても、心は晴れて候。年寄 酔い過ぎては計り事も狂う。杯を少々いただくはよし、されど節度を守れ。若党 一同 かしこまり候。
(場面は密談の細部へ移る。名簿や手紙が回される。) 年寄 この紙にあるは、事の順序と担当の名。四十七の命が一つとなり、仇を討つ時は互いに遺書の如くこれを見よ。若党 拝見仕る。ここは門番を欺くこと、ここは渡りを固めることとある。年寄 さすれば各々の心得を確かにし、相手の合図に従え。時節の目安は夜更けの頃、朧にて三度の合図を以て開始とす。
(やがて暁の話になる。) 若党 夜が明けると見えて、事後の避難所と連絡の手は整えておるか。年寄 それに付いては以前より手を回し、味方の屋敷に分散して滞在せしめる算段あり。若党 それはよろしい。然らば一件落着ののち、各々は散じて、故郷に戻ることも叶うであろう。年寄 だが忘れるな、義のために命を尽くすならば、浮名の譜にも名を残すべし。
(一同は覚悟を固め、立ち上がる準備をする。) 年寄 さあ、時は来た。各員それぞれの装いを整え、所定の場所に集まるべし。若党 この一戦に懸けて、我らは主の仇を討たん。女将 おや、皆様お急ぎで。何か心配事でもおありか。年寄 いや、ただ旅立つ者の慌ただしさ故にございます。女将 お怪我などござらぬように。若党 一同 御心配無用に候。
(場がしだいに静まり、客は去り、茶屋はまた普段の営みに戻るが、心の内には決意が残る。) 年寄 それでは各々、夜半を待て。ここに集った者の志を忘るるな。若党 忘れはいたすまじ。ただ黙して行動あるのみ。女将 そいではまた、気をつけて御座いませ。